目を開けたら、寺子屋の門前。
つか、何で俺、此処で倒れてんだ?
死んだ魚
傍にあった、自分の刀を持ち、寺子屋に帰る。
草履を無造作に履き捨てて、居間に入った。
其処には、高杉が、他の隊士から傷の手当てを受けてる光景しかない。
後ろを振り向いても、笑ってくれるが、居ない。
高「・・・おい天パ、は、どうしたァ?」
銀「・・・知らねぇ」
高「・・・知らねぇだァ? ふざけてんのか」
銀「何時から、居ねェんだ? っつーか、俺、戦場からどうやって帰ってきた?」
高「終にボケたか。 手の施しようの無い奴だな、お前」
銀「戦場では、居たはずだぜ? っつーか、俺どーやって、帰ってきたんだよ」
高「知るか、ボケ」
急いで、寝室へと向かう。
縁側に差し込む光は、夕日の優しい光。
赤く、赤く、空を染め上げた。
勢い良く、寝室のふすまを開け、を探した。
アイツは、戦い終わったら、怪我の手当てもせずに直ぐに寝るから・・・。
だから、其処に居るって、思った。
思ったけど、
は、居ない。
俺との布団は、部屋の隅っこに、並んで置いてある。
花柄の布団が、ので、藍色が俺の布団。
並んで置いてある。
いつもなら、其処にの寝顔があるはずなのに、
色褪せた枕だけが、其処にあるだけ。
あと、が隠し持ってた、駄菓子。
屋根上に、行っても。
使わなくなって、荒らされた教室に行っても。
道場に行っても。
裏庭に行っても。
寺子屋中を、探しても。
が、居ない。
後ろで笑ってくれる。
傍に居て理解してくれる。
小さい頃から、同じ目線、同じ景色、同じ途を歩いてきたは。
今、俺の隣にも、後ろにも、傍にも、居ない。
玄関先で、待ってれば帰って来ると思った。
俺だって、時々、我を忘れて敵を斬る。
だけど、斬り終わった頃には、ちゃんと意識は戻ってる。
きっと、どっかで、道草を食ってるんだろうと、思った。
だから、夕飯も食わず、玄関先で、頬杖をつきながら、帰りを待った。
でも、先に帰ってきたのは、情報収集やら、なにやらで居なかった、ヅラ。
無言で、俺の目の前に立ち、白い紙を見せた。
それを、恐る恐る手にして、内容を確認した。
白く、綺麗な紙には、赤い文字と、の名前。
所属;吉田松陽元 寺子屋 (松下村塾)
担当;東201地区
性別;女
名前;
親族;無
八月弐拾参日 南1地区にて、死亡確認済み。
ガシャンと、音を立てて、俺の膝元に投げ捨てられたのは、
の刀。
松陽先生が、に似合うようにと、買って上げた、刀。
鍔の装飾は、月下美人の花模様。
鞘の色は、黒に近い、深緑の色。
ヅ「どういう意味だ、コレは」
銀「俺が聞きてぇよ」
ヅ「は、死んだと書いてある」
銀「・・・そーだな」
ヅ「どういう意味だッ!!!」
ヅラは、俺の胸元を掴み、睨みつける。
俺だって、理解できない。
が、死んだ? 何を理由にだ。
「飯だぞ」 って言えば、千里を光速の速さで、走って来そうな女だぜ?
「ちゃん」 って言えば、
刀が、光速の速さで飛んできそうなぐらい、腕力の強いアイツだぜ?
おいおい、ヅラぁ。 天人と人間のあいこの奴、ナメんなよ。
銀「ガセネタだろ? コレ」
ヅ「…の刀も、ある。 それと、コレもだ」
それでも、その [死んだ] と言う確実は、ただ強くなってゆくだけ。
ヅラの手には、の羽織の右肩部分。 血が着いてるのは、返り血だと良いけれど…。
嗅いで見たら、天人の血の匂いではなかった。
微かにする、の匂い。
返り血なのか、アイツの血なのか、全然分からねぇ。
ヅ「てっきり、お前がを、守ると思ってたけどな」
高「・・・俺も、そう思ってたぜェ? 白夜叉さんよォ。」
何時から居たのかは知らない。
気付いたら、高杉が、後ろでキセルをふかし、立っている。
2人して、同じ顔。
「失望した」と、言わんばかりの、顔。
銀「・・・」
ヅ「それと・・・コレ。」
振り返り、高杉の元へと向かったヅラの背後を見た。
懐から出したのは、もう一枚の、綺麗で真っ白な紙。
吉田松陽
松下村塾 塾頭
八月弐拾参日 幕府開国軍因り切腹。
高「・・・」
ヅ「先生も亡くなった」
銀「・・・」
高「・・・」
投げつけられた、キセル。
2つに割れて、庭の隅へと。
その傍に咲いているのは、場違いの、ハイビスカス。
此処は、沖縄でもねぇのに、何故か咲いてる。
赤く、赤く、今さっきまでの空と、同じ色。
ヅ「如何したものか…。 何の役にも立たない戦だったな」
高「・・・」
銀「・・・コレから、どーすっか」
ヅ「攘夷を続ける。 お前等は?」
高「西に行く」
ヅ「…京か?」
高「あぁ」
銀「・・・」
誰かを、何かを守る戦いは、慣れてる。
其の後に、残るものは、何も無いと知っていても。
守りたい者も、残らないと知っていても、勝手に体が動く。
ヅ「銀時、貴様は如何する」
高「・・・攘夷を続けんのか?」
そっと、落ちてたの刀を手に握り。
の羽織の右肩部分を握り締め。
死亡通知書を懐に入れて、2人に答えた。
銀「・・・俺、足洗うわ。 元々、攘夷とか良く分からなかったし」
次の朝。
みんなが起きる前に、俺は身支度をした。
自分の刀、の刀。 俺の羽織、の右腕部分の布切れ。 白い鉢巻。
とにかく、必要そうな物、全部を風呂敷に入れて、包んだ。
あ、それと。
の死亡通知書。
夢で無ければ、俺は、と一緒に話していた。
は、俺に一緒に行けないと言っていた。
泣いた声で。 俺にそう言った。
それ以後は、覚えてない。
きっと、を守ると言ってきたのに、いざと成って、を守れなかった俺への
辛い罰なんだって、思った。
なのに、起きたら、其処は、寺子屋の門前。
も居ない。
だから、夢なんだって、罰なんだって思った。
wake me up.
before YOU LEAVE...