入院先の部屋に居たのは、小さな餓鬼だった。
俺から見たら、小さいのだがああ見えて16歳だと言い張るもんだから、驚いて腰を抜かしそうになったと言うのは古代表現。


「ジャンプ?」
「そ、少年のバイブよ」
「言うなら、バイブルでしょ?」
「まぁ、そうとも言うな、うん」


一日最低でも、こんな変哲も無い会話が飛び交う。
お互いカーテンは開けっぱなしで、目を見て話せるのだが、まぁ、そんな義理もいらないだろうとか、思ってた。


甘い物は、最近全然食べて居ない。
まぁ、医者に言われているから食べれないのだけれど、新八も神楽も持ってきてくれない、因みに俺は所持金ゼロ。
その為、こっそり買える訳でもなく。

同室に居る、その小さな餓鬼は一日外出許可が出た。
それを自慢気に俺に話す、楽しそうな顔。
俺は相変わらず、足が使えないし(骨折した)、プラス糖尿病の危機とか何とかの理由で、まだココに居るし、当分出れないだろう。


「じゃぁ、ついでに饅頭買って来いよ」
「はァ? めんどくせー」
「いいだろォ? 年上の言う事は聴いといて損はねぇって」
「それ、ちょっと違う意味じゃn
「いいから、買って来いって。」

俺はもう去るソイツにしつこくそう言っておいた。













そして、夕方帰ってきたそいつの手には、紅白饅頭。
祝いの席などで良く見られる、あの紅と白の饅頭だ。
いやいやいや、可笑しいだろ、入院中の人に紅白饅頭って。
饅頭って、普通のでいいんだけど、とかそんな文句は言っていられない。
俺は白。
ソイツは紅の饅頭を一口食べた。

甘くて、もう金輪際甘い物なんか食うかって、誓えるぐらいだった。(まぁ、誓ってないから今でも食ってる)











その日の1週間後、俺は晴れて退院した。
俺は夜中、寝ているソイツに分かれも言わず、静かに病室を去った。
もちろん、今日で退院だなんて一言も言っていない。
だって、そのほうが、カッコいいだろ?







その数日後、同じ病室に行ったら、誰も居なかった。
ガラリとしたその病室にソイツの姿は無くて、俺が置いて行ったジャンプだけが其処にある。
看護婦さんに聴けば、思った通りの答えが帰ってきて、俺は手土産をどうしようかと考えた。
まぁ、買ってきたのはジャンプなのだけれど。
半分の人生をこんな気が滅入る白い場所に居れば、漫画から学べるものも多いと思った。













紅白饅頭ね、凄い好きなんだ。
理由?
お前が始めてくれたものがソレだったから。

よく分かんないけど、俺は普通の饅頭を頼んだ筈なんだけど。

お前は知ってか知らずか、入院中の俺に紅白饅頭を買ってきた。
赤いのはお前が食って、俺は白いのを食った。
甘かった、すごく。 ものすごく甘くて。
もうこんな物食いたくねぇってこの俺が思うほどだった。






”神様のまやかしだろう。”
”君が、死ぬわけ無いのだ”
”俺の明日をあげるから、”
”生き返れ、その儚い生命”

葬式饅頭、買ってやろうか?
あの時俺に紅白饅頭買ってくれた御礼だぜ?

”君にあげよう”
”僕の生命”






元は『ちいさい、噺』で書いた小ネタ。
050310