強くなりたいと、そう願った。
余りにも細い自分の腕では、鍛錬してきた銀ちゃん達と全然違って、木刀を持つだけで精一杯だった。
鉛の入った木刀を持っても、剣筋が荒れるだけで、晋助によく笑われた。









「何してんだ、てめぇ!俺だって、銀時! みんなの銀さんだって!」









強くなりたいと、泣いて祈願した。
そうしたら、隣に居た銀ちゃんは俺の頭を撫でながら、『じゃぁ、俺が稽古つけてやる』と言ってくれたのを、今でも覚えている。
だから、泣くな。と続けて。







「無駄だぜ、何言おうとはお前を覚えちゃ居ねェ」
「高杉テメェ!」








その日からは、人一倍頑張った。
傍から見たらこきを使われていたのかも知れないけれど、こなせる物なら何でもこなした。
いつも励んでいた文学を放って置いて、剣ばかりを握った。
いつしか、戦場にも赴いて、夜叉子と呼ばれるようになった。

白夜叉の子、夜叉子。


だから、白夜叉の銀ちゃんが居なくなったときは、死にそうになった。
この薄汚い世界から酸素がなくなるの対等だった。
程なくして、俺は、俺は、俺は何も思い出せなくなる。























神威が怪我をした。
晋助は面倒くさがりだし。
武市は船の操縦があって、万斎はどっか行った。
戦える要員は俺しか居なく、俺は言われたとおり、目の前の銀髪頭の敵と対峙していた。

見慣れた木刀は、真剣を握っている俺をなめているかのように見えるから、イライラする。




「何も思い出せないんだってなぁ、」
「・・・、」
「こら、無視か、コノヤロー」
「・・・、」

無言即撃。
背後に居たはずの晋助の気配は居なくなった。
俺は喋る相手を無視して無言で攻撃をしたはず、だった。

「お前の攻撃は目に見えてんだよ、」
「・・・ッ!?」

相手は何時の間にか自分の背後へと周り、そのまま俺の背中を蹴った。
吹き飛ばされるがままの俺は、剣を落としその場に受身を取った。



すぐさま振り返ると、木刀の癖に俺の心臓めがけてその尖端を差した。


「お前は、自信がありすぎるっていっつもいってんだろ、」
「・・・?」
「それと、癖、治ってない。 お前はいつも右寄りになる、治せ」
「・・・てめぇに何が分かんだ!」
「泣くなって言ってんだろ?」

「泣いてねェッッ!」


意味の分からないことを言われた。 それ以前に、直ぐに俺の癖に気付かれ憤慨。







「じゃぁ、何でお前は泣いてんだ、」
「さ、わんなっ」





一生懸命泣いた。 もう泣くなといわれたのに、涙が自然と零れた。
銀ちゃんが帰ってくればいい、とそう願いながら、泣いたのを思い出した。
闇雲な行方を追うすべを知らない俺は、そうだ、ずっと動かずに居たのは俺だったんだ。






『アンタも泣いてんじゃんか。』




脳の制御も聞かずに相手の熱に触れる自分の手が熱い。














「なんも言わず消えてごめんなー?」




脳の制御も聞かずに目から大量に零れる自分の熱。




「銀さんも若かったわけでよー。 ちょいちょい暴走してた」




脳の制御も聞かずに目から大量に零れる自分の熱。



「まぁ、なんだ。 うだうだ言うつもりはねぇけど、」




脳の制御も聞かずに目から大量に零れる自分の熱。



「ちゃんと、前へ進めよ。」




脳の制御も聞かずに霞み行く意識の中で無意識に伸ばした手。





「俺ァ、お前が笑ってれば、それで良いから、笑ってくれや、な?」





頬に引っ張られた感覚を最後に、俺は目の前が真っ暗になった。





無邪気な顔で笑う君が、その時、俺の世界から消えた。
じゃぁ、また会う日まで。









2010/07/27
連載にしようと思ってた。

いらぬ設定;
・弱い男主。
・現;鬼兵隊所属攘夷浪士
・旧;夜叉子【やしゃご】。→白夜叉の背後にいつも居るため。
・銀ちゃんが忽然と居なくなり我を失い、見かねた晋助がしめたと思い男主を記憶喪失にさせる。
・記憶喪失以来、高杉に良いように戦闘要員として使われている。
・高杉はやっぱり悪い人だった。
・男主は高杉のことを信じている。>悪い奴だ!とは思ってない。
・なんやかんやで攘夷活動をしている。>高杉が自分の事を救ってくれたと思っているから。≠高杉への恩義