桜の花びらが、揺ら揺らと空気に舞った。 甘い匂いを運んできた。 傍で騒ぐ、神楽や新八、真選組の奴等。 俺は杯に入った、一枚の桜の花びらを見た。 そういえば、此処。 俺とが約束した場所だったよな。 戦争が終わって、一回遠い寺子屋に帰ったは、幕府の粛清で死んだ。 約束したんだ。 此処でまた会うんだって。 指切りげんまんして、お互いの帰路を歩いた。 笑って、サヨウナラをした。 だが、此処に帰ってきたのは、俺独り。 気まぐれに此処へ歩いてみては、もう来ないを待っていた。 もしかしたら、来るんじゃないかって思って、 最初のうちは、毎日毎日の様に来ていた。 でも、は、現われなかった。 どれ程、また遇えると思ったんだろう? 街中で、偶然と会って。 最初は、約束の場所まで来なかったことに、俺は怒るが 其の後は、俺お勧めの甘味処行って、何してたか、話し合って。 笑い合って、怒りあって。そんなのを、ずっと願ってた。 ずっと大切に、そっと大事に扱うようにして、と一緒に過ごすんだ。 其の後、小さいが街中で迷子にならないように、手繋いで、 猫の様に、手首に鈴をつけるのも良いかも知れねェ。 立ち止まったら、そこで小さな温もりを抱きしめて。 「お前、小さいのな」って、言ったら、驚いた顔をしたを何度も見るんだ。 そんな小さな温もりは、もう随分前に消えた存在。 どれ程、愛おしいと思ったんだろう? 小さく笑い、大きく泣いて、天然なが、愛おしくて。 頭撫でてやってり、ぐしゃぐしゃにして困らせたときも在った。 それも、もう、今じゃァ奇麗な思い出。 思い返してみても、涙が零れるぐらい、お前が愛おしい。 [桜の花びらが零れる前に、此処で落ち合おう] その約束は、ただ脳裏に映った。 あの日の光景が、あの日の温もりが、頭にまだ写る。 鮮明に甦るようにして、あのでかい桜の木下で、した約束が。 ただ、甦るだけ。 俺は、杯に入った桜の花びらを取った。 空にかざしたら、淡い紅梅色が白に変わった。 次の瞬間に吹いた強い風に、その花びらは吹き飛ばされた。 「あれ? 旦那ァ、何してんですかィ? ほら、もっと呑みなせェ!」 「いや、総一郎君。 キミ、未成年だろ?」 「気にしちゃ、いけねェや!」 「・・・、ハイハイ」 俺は、重い腰を上げ、立ち上がった。 桜は、舞う。 約束した時期は、過ぎたから。 俺は、来年を待つ。 [桜の花びらが零れる前に、此処で落ち合おう] |