背中の白夜叉。
目の上の曇天は、雨を齎し、雷をも齎した。


望んでも居ない、情景を。
今、此処で噛み締める。












背負った白夜叉の、腹の部分からは。
真っ赤な血が、出てる。
止まることを知らないらしく、アタシの服でさえも、赤に染める。




「ゴメン」
「何が」
「俺、死にそう」
「アンタはそう簡単には、死なない」
「…血が、ドバドバ出てんの、自分でも分かる位」
「それだけじゃぁ、死なないよ。 白夜叉は」
「…無理だって。下ろせ、服に血が着くぞ。」
「…雨降ってるから大丈夫。 血なんて落ちる」



放さないで居たい。 貴方が死ぬ、その最期の一秒まで。
貴方に触れていたい。

大人しい、白夜叉はそっと柔らかく笑う。
手には、力が入らないらしい。 だらんと垂れているだけ。
どんどん重くなっていく、白夜叉の体は、冷たい。
降る雨と、流れ出す血の所為で、冷たくなってきた。


「もうさ、助からないから…下ろせ、
「嫌だ。助かる。助けてみせる。 あとちょっとで、着くから。待って」




目指すは、少し離れた、小さな小屋。
と言っても、小屋に居るのは救護班。
雨の所為で、足場が悪い。
血の後が、アタシの歩いた場所に出来る。
雨が、自分の体温を奪っていく。
背中に居る白夜叉の体感温度は、もう無い。


「…なぁ」
「何」


小さな声で、アタシを呼ぶのは、これで最後になるんでしょう?
消え入りそうな、虫の声で。




「明日は、平和かね?」
「知らない」
「まぁ、そう言わずに」


こんな戯言で、最後の力を使わないで。
もっと、もっと、もっと。
意味のある言葉を頂戴。


「…ばいばい」
「売買? 何を」
「・・・じゃなくt
「銀?」
アリガトウな、
「・・・」


返事は無い。
白夜叉と呼んでも。
「銀時」と、久しぶりに下の名前で呼んでも。


背中で、優しく微笑む貴方は。
それでも、返事をしてはくれない。

背中に居るのに。
ちゃんと、此処に居るのに。
優しく微笑んで、アタシの背中に居るのに。

心拍数は、何時の間にか止まってる。
血は、出たまんま。
アタシの服までもが、血だらけなのに。
なんで、一度出た血は、戻らないんだろう。

もどれば、君が生き返ってくるかもしれない。


「返事してよ、銀時」



こうやって、貴方を背中に背負い込み。
戦場で、立ち竦んで、雨に紛れた、涙を流すだけで。
背中に居る、貴方は。


何をしても、返事はしてくれない。


雨と共に流れた涙は、豪雨でさえも、紛れ切れない。


貴方が死ねば、アタシは明日から、誰を守れば良いんですか?


貴方が死ねば、アタシは明日から、誰を思えば良いんですか?

貴方が死ねば、誰がアタシを思ってくれるんですか?




貴方が死ねば、アタシは明日から、何を愉しみに。






活きれば良いんですか?











戦場は豪雨。