さようなら、さえ言えずに。 ごめん。 謝ってばっかりで、ごめん。 渡せずに居た、イルカの指輪。 3人で一緒に、買い物行った時、お前が欲しいって言ってたよな。 あの時は、金が足りないって事で、買えなかった、その指輪。 目を閉じれば、甦る笑い声、楽しかった過去に確かに有った、辛かった日々。 隣にいた、。 傍に居た、高杉。 黄昏の帰り道。 夢を持ちはじめた、あの頃の俺達。 一緒の道を、一緒の歩数で、一緒の時間を歩いた。 「何で生きてるんだろう?」 今日の鞄持ちは、高杉。 俺らは、手ぶらで、何時もの道を歩いた。 放課後、学校帰り。 3人で、校庭の隅で、野球(っつーか、キャッチボール)して、遊んだ。 腹が減ったと毒づくに、しぶしぶ俺らは折れて、ただ今、帰り道。 銀「何、真剣に悩んでんだよ」 高「お前らしく無いな」 「何でだと思う?」 銀「…さぁ?」 高「…何で生きてるんだろうって、考えるのが、人生だからじゃね?」 「晋助。 アンタ、意味不明」 銀「に同じ」 高「馬鹿デュオ」 「んなっ! 銀と一緒にすんな!!!」 銀「そう言えば、そっか。 お前、誕生日近いよな」 高「…生まれた事に疑問を抱けば、限りねぇぞ」 楽しかった。 本当に。 どんな日々よりも、輝いて見えた。 誇大表現かもしれないけれど。 学校帰り、何時ものように笑って帰って、時には喧嘩して、それでも、俺らは何時も3人一緒。 鞄持ちジャンケンして、が、不貞腐れたり、高杉が3日連続負けて、鞄を持ったり。 時々、駄菓子屋に寄って、帰りが遅くなったり。 高杉が、力任せにボールを投げて、ノーコンが、もっとノーコンになって、ボールが行方不明になったり。 ミットを投げ合って、痛い思いしたり。 キャッチボールの後に飲むコーラが、一番おいしかった。 昼休み時間、屋上に行って、3人で寝たり。 放課後まで寝たときも有った。 高杉が、好奇心で買って来たタバコを、3人一緒に、吸ってみたり。 秘密裏に、屋上へと持ち込んだBBQセットで、BBQ食ったり。 あの後、小火騒ぎとか言われて他の生徒に、チクられ、職員室行きだったっけ。 一緒に補修受けて、一緒にサボって、一緒に、一緒に。 何時も一緒だって、思ってた。 当たり前になっていたんだ、「ソノ生活」が。 途端に鳴った着メロは、確かに高杉からの着メロ。 街のざわめきで、少し聞こえなかった。 俺は、ダラダラとケータイを、ポッケから、取り出して、電話に出た。 銀「もしもし? 高杉? 俺、今、外に出てんだけど、一緒にm 高「 」 銀「…」 高「 」 先の事は、良く分からない。 高杉が何を言ったのかも分からない。 ただ、急に、目の前が、頭の中が、暗くなった。 息が、出来なくなった。 心臓が止まったかと思った。 段々、現実へと引き戻されたとき。 やっと、状況が、理解できた。 やっと、今さっき高杉が何を言っていたのか、分かった。 やっと、自分の置かれている現実に、戻れた。 高「お前知ってたか? 今、アイツの親居ねえって。 今さっき、__病院の人から電話来た。友達でも良いんで、来て下さいって。 って、おい!!…聞いてんのかよ、銀八…」 そう言えば、「両親が旅行に行った」って、言ってたっけ? の奴。 その大事な一言は、何時もの下らない会話の中に消えて行った。 俺は、急いで、小母さんと、小父さんに、電話をした。 ケータイが、繋がって、本当に良かったと思った。 でも、今日は帰れないらしい。 帰りは、明日の昼になると言う。 俺は、もう如何でも良くなり、高杉から言われた指定の病院へと、チャリをブッ飛ばした。 目が、痛い。 乾いて、痛い。 それでも、前を見て、チャリをブッ飛ばす。 早く着くように。 早く病院に着くように。 着いた病院は、薄暗かった。 チャリを、投げ捨てるように、降りて、階段を駆けた。 近くを歩いてた、看護婦さんに 「今さっき救急車で運ばれた人は?」 って、聞いて。 返された言葉は。 「遺体室に在ると思いますけど?」 その返事は、もう、全てを悟った。 思い切って開けたドア先には、高杉が崩れていた。 の手を握って。 泣き崩れていた。 銀「何の冗談だよ」 高「・・・・・・」 銀「返事しろよっ!!!」 俺は、ドアを閉めて、の顔の上にかかった、布を退けた。 笑ったような顔で、血まみれで、包帯巻いてあって、寝顔で。 が、其処に居た。 高「即死らしい」 銀「んでだよ…」 高「……」 銀「…お前が駆けつけたときには…」 高「…抜け殻になってた。 可笑しいよな、体は此処に有るのによ、心はもう無いらしい。 何言っても、返事しねえんだよ、こいつ」 なぁ、死ぬなよ。 俺、まだお前に、「さよなら」も言ってねぇぜ? なぁ、死ぬなよ。 俺、まだお前に、気持ちも伝えてねぇよ。 なぁ、死ぬなよ。 今さっき、俺、お前のために誕生日プレゼント買ってきたばっかなんだけど。 なぁ、死ぬなよ。 俺ら、夢、まだ叶えてねぇじゃん。 一緒に叶えるって約束したじゃん。 高杉と、俺とお前とで、同じ学校に就職して、同じ教師をやるんだって。 高杉は、保健室の獣で。 俺は、古文。 んで、お前が、現国。 ナイスなコンビネーションだろ? なぁ、死ぬなよ。 この指輪は、どぉすりゃぁ、良い? お前が、前に欲しいって言ったから、買った物なのに。 お前以外、誰にも上げたくないのに。 お前以外、誰にも填めて欲しくないのに。 なぁ、死ぬなって、マジで。 これから、俺等、高杉と俺の2人で、キャッチボールしなきゃ、なんねぇだろ? それじゃぁ、つまらねぇ。 それに、今更、新しいダチは、面倒だ。 お前じゃなきゃ、ダメなんだよ。 それに、鞄持ちジャンケンは、どぉなるんだ。 俺ら2人だと、意味ねぇじゃんか。 の代わりは、もう何処にも現れねぇんだよ。 だから、死ぬなって。 マジで。 困る。 それでも、 どんなに願っても。 どんなに思っても。 どんなに祈っても。 もう、は、 俺等と一緒に、キャッチボールをする事も無い。 俺等と一緒に、BBQする事も無ければ、笑い合う事も無い。 俺等と一緒に、帰る事も無ければ、鞄持ちも。 俺等と一緒に、補修も受ける事は無い、隣に居てくれもしない。 体は、目の前に有るのに。 心は、どっかに消えたらしい。 高杉の言うとおりだ。 返事が無ぇ。 ポッケの中に有った、指輪を握り締めたまま。 俺は、部屋を出た。 壁にもたれて、其の侭座りこむ。 今の俺等には、きっと。 祈る事は、無駄で。 願うことも、無駄で。 きっと、今の俺等には。 泣く事と、を、思うことしか出来ない。 でも、どんなに思っても。 どんなに祈っても。 どんなに願っても。 は、もう一度、俺等の目の前には現れない。 いや、現れてくれないんだ。 俺は、部屋のドアに、座るようにして、崩れて。 声も泣く、指輪を握り締めたまま、泣いた。 を、忘れないけれど、それでも。 俺は。 お前を、過去に置いて、今を進む。 今を歩む。 お前を、過去に。 置いたまま。 「銀_____!!!」 あ゛? 誰だ。 このヤロー。 「銀八__!!」 ・・・誰? ? イヤイヤイヤ。 生まれ変わりとか、信じねぇぞ。 俺ぁ、神様は信じないからな。 祈っても無駄だって事は、知ってる。 神様を信じない俺は、祈っても、願っても、意味は無いのは知っている。 「銀八先生!」 ゆっくりと、目を開けた先には。 突っ込みメガネと、その愉快な仲間達の、マヨラ、暴力女×2、サド、ゴリラ。 銀「…何してんだ! てめぇ等! アブない物、しまえっ!!!(汗」 生徒が持っているのは、鋭利な刃物と、日本刀、コンパス、カッター、そして、しゃもじ。 気のせいだと思いたい。 目の前に居る奴等の、目元が暗い。 怒って居ますオーラ、吹き出てるし。 ソレを、こっちに投げる気、満々だし。 妙「授業料、返せ。ゴルァ!!!」 銀「嫌…ちょっ!!! 待て!! 待て!! いくら先生が、名探偵、夢水清○朗 並みの、生命力でも………」 神「…問答無用アル!」 土「人の居眠りは注意しといて、自分の居眠りは、良いのかよ? あ゛ぁ?」 総「旦那ァ。 そりゃぁ、無いでしょう?」 近「…プータローめが!!!」 「「「「オルァァァアアアアア!!!」」」」 銀「イギャァァァアアアアア!!!!」 そう言えば、命日、近かったっけ? だから、夢に出てくるんだ。 あの日々の事が。 甦るようにして、夢に出るんだな。 毎年、この時期が近づけば、あの夢を見る。 蝉の声が、徐々に聞こえ始める。 スイカが美味くなる季節。コーラが、また一段と美味くなったり。 屋上に、吹く風を、頬が撫でたり。 BBQセットで、遊んでたり。 キャッチボールしたり。 それでも、その季節は、確かに。 お前が、俺らを置いて逝った季節。 墓参りは、不本意だけど、高杉と行こう。 一緒に行けば、きっと、喜んでくれる。 渡しそびれた、イルカの指輪持って。 |