意地を張った所為で、と、久々に喧嘩。
俺から、謝る心算は無い。
俺は、俺を信じて、俺の思ったことを口にしたまでだし、
だって、そうなはず。







喧嘩の内容は、本当に下らなかった。
ジャンプと、アイツ。 どちらを愛してるか。
ジャンプと、俺。 どちらを一番愛しているか。
照れくさい言葉は、言いにくい。
臭い台詞だって、本当は言いたくない。
「愛してる」だの
「お前しか居ない」だとか。
「お前は俺の一生物だ」とか。



まぁ、結果。 へんな意地の張り合いの所為で
喧嘩勃発。
仕舞いには、俺の買った、コンビニ最後のジャンプを掻っ攫い
は、帰宅。
俺は、カバンからそっと鍵を出して、自分ちのドアを開ける。




俺等は、いつしか隣同士だった。
小さい頃から。 ずっと、一緒。
気付けば、傍に居たし。
傍に居ない日は、少し不安になってお互いを心配しあったりもした。
学校も、同じ。
クラスも、同じ。
仕舞いには、夢まで同じ。
どんだけ、変な糸で絡まってんだ、俺等は。



放り投げた、カバン。
隣窓を見れば、直ぐにの部屋。
なんてベタな、部屋の構造何だろうとか、考えるのも、思い出すのも、
もう止めた。 理由は、答えが無限大だからだ。
















下らない事の、繰り返し。
怒ったり、怒られたり。
殴ったり、叩かれたり。
笑って、アホし合って、沈みあって、また浮上。
同じ感情を、同じ瞬間に、
同じ空の下、同じ空気に、
俺等は、紛れも無く、
其処に居た。





紛れも無く、其処に、俺とは、居た。














部屋のベッドへ、ダイブ。
見える低い天井。
ロックアーティストのポスターと、カレンダー。
電源が付きっぱなしの、CDプレーヤー。
並べられたCDは、背表紙の色とりどり。
と、何時しか、ゲーセンで取った、可愛くも無い、人形。
パンダの、人形は、手を突っ込んで、仕掛ければ、口が動くという物。
サンタクロースの恰好をしたパンダは、埃被っていた。



ふと、窓から聞こえた、門を開ける音。
さびた其の音は、確かに、隣の家から聞こえた。
俺は気に成り、窓から覗けば、
が、制服の侭、出掛けようとしていた。

一瞬、追いかけようと思った。
何処に行くんだろう。
喧嘩したこと、追い詰めてんのか。
何、買うんだろう。
ついでに、イチゴ牛乳買ってきてくれねぇかな。




頭に駆け巡ったそんなアホな思考は、母親のドアノック音で、閉ざされた。












つまらない、お笑いテレビ。
台所から聞こえる、食器を洗う音。
チャンネルを、ナイターに変えた、親父。
ふと、俺は自室に戻って、の部屋の様子を伺おうと、2階へ上がった。
電気を付けづに、隣窓へ。
の部屋の電気も、いまだに付いていない。
食事中か? いや、そりゃぁ、可笑しい。
アイツんちの夕食は、いつも早い。
まだ、出掛けてんのか? 何しに? CD買いに行ったのかよ。
俺の、貸してやれんのに。 あ、でも今、喧嘩中か。



電気を付けて、CDを入れた。
流れた大音量の歌は、大音量が故に音潰れのした、ギター音。
下で、親父の怒鳴り声。
どうせ、音量を小さくしろとかだろう、関係ない。
今度は、母親。 どんどんどんと、煩くドアを叩いた。
鍵は付いたまま。 母親は、鍵を持ってないから、
あけられないんだと思う。
さすがにしつこいから、ドアを開けたら、泣き崩れそうな顔で、俺を見た。



次に出た言葉を信じるのに、
一曲分の時間が必要だった。



ちゃんが、交通事故で―――」



あぁ、俺等どうせ神様にでも、嫌われてたんだろ?












ついた先の病院は、白が綺麗な壁だらけ。
病院だから、当たり前なのだろう。
だけど、今は、その白が、
妙に変な緊張感を生んだ。
夜の病院は、明かりが少し消えていた。
妙に静かな建物は、非常口の緑色をした光が、少し目立つ。


案内された病室に、横たわる
傍においてある、事故瞬間に持ってた、物。
肌身離さず持っていた、iPod
いつもの首から、チラリと見えた、銀のネックレス。
俺が去年の誕生日に上げた、財布は、血塗られていた。
白い部屋の中で、一箇所だけ、色が付いた場所。



ソレは、花瓶に添えられた、赤と黄色の花だった。






あぁ、何? お前、喧嘩したこと俺に謝らずに、逝く訳?



俺さぁ、まだお前に、謝ってもねぇんだぞ。
言わせろよ、なぁ。
お前の眼を見て、お前の手を握って、お前を感じて、
「ごめんな」と、謝りたいのに。
何で、こうなるんだよ。
何で、俺はいっつも、出遅れんだよ。
たったの4文字じゃねぇか。 



今、一番言いたい言葉を、言いたい相手が、居ないんなら。
俺は、どうすればいい?



泣けばいいのかよ、後悔すればいいのかよ、俺も、お前の後を追って
逝けばいいのかよ。



「ごめんな」と、言えたなら。
俺は、此処で、泣いていない。




君が、居た。





0906