意地を張った所為で、と、久々に喧嘩。 俺から、謝る心算は無い。 俺は、俺を信じて、俺の思ったことを口にしたまでだし、 だって、そうなはず。 喧嘩の内容は、本当に下らなかった。 ジャンプと、アイツ。 どちらを愛してるか。 ジャンプと、俺。 どちらを一番愛しているか。 照れくさい言葉は、言いにくい。 臭い台詞だって、本当は言いたくない。 「愛してる」だの 「お前しか居ない」だとか。 「お前は俺の一生物だ」とか。 まぁ、結果。 へんな意地の張り合いの所為で 喧嘩勃発。 仕舞いには、俺の買った、コンビニ最後のジャンプを掻っ攫い は、帰宅。 俺は、カバンからそっと鍵を出して、自分ちのドアを開ける。 俺等は、いつしか隣同士だった。 小さい頃から。 ずっと、一緒。 気付けば、傍に居たし。 傍に居ない日は、少し不安になってお互いを心配しあったりもした。 学校も、同じ。 クラスも、同じ。 仕舞いには、夢まで同じ。 どんだけ、変な糸で絡まってんだ、俺等は。 放り投げた、カバン。 隣窓を見れば、直ぐにの部屋。 なんてベタな、部屋の構造何だろうとか、考えるのも、思い出すのも、 もう止めた。 理由は、答えが無限大だからだ。 ◆ 下らない事の、繰り返し。 怒ったり、怒られたり。 殴ったり、叩かれたり。 笑って、アホし合って、沈みあって、また浮上。 同じ感情を、同じ瞬間に、 同じ空の下、同じ空気に、 俺等は、紛れも無く、 其処に居た。 紛れも無く、其処に、俺とは、居た。 ◆ 部屋のベッドへ、ダイブ。 見える低い天井。 ロックアーティストのポスターと、カレンダー。 電源が付きっぱなしの、CDプレーヤー。 並べられたCDは、背表紙の色とりどり。 と、何時しか、ゲーセンで取った、可愛くも無い、人形。 パンダの、人形は、手を突っ込んで、仕掛ければ、口が動くという物。 サンタクロースの恰好をしたパンダは、埃被っていた。 ふと、窓から聞こえた、門を開ける音。 さびた其の音は、確かに、隣の家から聞こえた。 俺は気に成り、窓から覗けば、 が、制服の侭、出掛けようとしていた。 一瞬、追いかけようと思った。 何処に行くんだろう。 喧嘩したこと、追い詰めてんのか。 何、買うんだろう。 ついでに、イチゴ牛乳買ってきてくれねぇかな。 頭に駆け巡ったそんなアホな思考は、母親のドアノック音で、閉ざされた。 ◆ つまらない、お笑いテレビ。 台所から聞こえる、食器を洗う音。 チャンネルを、ナイターに変えた、親父。 ふと、俺は自室に戻って、の部屋の様子を伺おうと、2階へ上がった。 電気を付けづに、隣窓へ。 の部屋の電気も、いまだに付いていない。 食事中か? いや、そりゃぁ、可笑しい。 アイツんちの夕食は、いつも早い。 まだ、出掛けてんのか? 何しに? CD買いに行ったのかよ。 俺の、貸してやれんのに。 あ、でも今、喧嘩中か。 電気を付けて、CDを入れた。 流れた大音量の歌は、大音量が故に音潰れのした、ギター音。 下で、親父の怒鳴り声。 どうせ、音量を小さくしろとかだろう、関係ない。 今度は、母親。 どんどんどんと、煩くドアを叩いた。 鍵は付いたまま。 母親は、鍵を持ってないから、 あけられないんだと思う。 さすがにしつこいから、ドアを開けたら、泣き崩れそうな顔で、俺を見た。 次に出た言葉を信じるのに、 一曲分の時間が必要だった。 「ちゃんが、交通事故で―――」 あぁ、俺等どうせ神様にでも、嫌われてたんだろ? ◆ ついた先の病院は、白が綺麗な壁だらけ。 病院だから、当たり前なのだろう。 だけど、今は、その白が、 妙に変な緊張感を生んだ。 夜の病院は、明かりが少し消えていた。 妙に静かな建物は、非常口の緑色をした光が、少し目立つ。 案内された病室に、横たわる。 傍においてある、事故瞬間に持ってた、物。 肌身離さず持っていた、iPod いつもの首から、チラリと見えた、銀のネックレス。 俺が去年の誕生日に上げた、財布は、血塗られていた。 白い部屋の中で、一箇所だけ、色が付いた場所。 ソレは、花瓶に添えられた、赤と黄色の花だった。 あぁ、何? お前、喧嘩したこと俺に謝らずに、逝く訳? 俺さぁ、まだお前に、謝ってもねぇんだぞ。 言わせろよ、なぁ。 お前の眼を見て、お前の手を握って、お前を感じて、 「ごめんな」と、謝りたいのに。 何で、こうなるんだよ。 何で、俺はいっつも、出遅れんだよ。 たったの4文字じゃねぇか。 今、一番言いたい言葉を、言いたい相手が、居ないんなら。 俺は、どうすればいい? 泣けばいいのかよ、後悔すればいいのかよ、俺も、お前の後を追って 逝けばいいのかよ。 「ごめんな」と、言えたなら。 俺は、此処で、泣いていない。
君が、居た。
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