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「そういえば、長谷部くんとはお話したの?」
「いや、その...してない」
「仮にも一時期は主を同じくした兄だろう?なんだ、話しかけないのか?」
「なんか避けられてる気がする」
「難儀だなぁ、あのへし切り長谷部も。」
「まぁ、色々考えているところはあるんじゃない?ほら、彼、顔に出ない人だから。」
「実にめんどくさい男だな。」
「それ、鶴さんが言う事?」
ははっ、光忠言うなぁ!と鶴丸が続いた。
厨房に出入りする私達は、出陣する事があまりないのだ。
私は、主から「実戦に行きたいのはわかるけど、しばらくこのまま本丸で待機していてくれ」といわれている。
かくゆう光忠と鶴丸は、最近厚樫山で拾われたばかりだ、練度が低い。
ここでは、練度が物を言う。
誰が一番最初にここへ来たか、というよりも、練度がすべてなのだ。
それぞれがそれぞれ、野菜の皮を剥きながら喋る、この時間がすごく好きだった。
具現化されても、使われないかわいそうな刀は、自室というか、光忠との相部屋においてある。
「ねえちゃん。」
「なに?」
「ほら、僕たちほぼ同時期に、伊達家へ行ったじゃない?」
「でも、あんたあの後徳川に行ったじゃん」
「まぁ、そうなんだけどさ。」
「で?それがどうしたの?」
「僕の事、お兄さんって思っても、、、いい、よ。なん、て。」
「何それ!」
私は思わず笑ってしまった。
それでも構わず光忠は続けた。
「倶利伽羅は練度が高いから、僕たちがあう事は少ないし。でもそうすると顔なじみは僕たち三人しかいないじゃないか。」
「まぁ、そうだね。」
光忠のいう事にも笑えるが、握る刃は、己が刀ではなく、包丁だなんて、本当に笑えるのだ。
「あっ、第一部隊が帰還した。兄様を迎えに行ってくる」
「う、ん。行ってらっしゃい。ここは僕と鶴さんに任せて。」
僕は、どう頑張っても、きっと、ちゃんの兄であるあの長谷部君には勝てないのだ。
厨房の外からは、ちゃんの元気に長谷部君を呼ぶ声が聞こえる。
夜に出る遠征は、夜のままだと、出た後に気づいた。
僕も鶴さんも、目は悪い。夜目は利かないのだ。
「鶴丸っ?」
「ねぇ、ちゃん。鶴さん、衣装が白一色どころか、すっごい真っ赤になってそうなぐらい今元気ないんだけど。」
「帰ったら、ずんだもちを食べよ。勿論、用意は光忠がやってよ?」
「え?僕なの!?まぁ、いいけれど…」
手ひどくやられて、結局敗戦して帰ってきたころには、本丸には朝が来ていた。
久しぶりの実戦にしては、最悪な結果でただただ格好悪かった。ちゃんも、僕も、鶴さんも、みんな一様に練度は低い。
「誰が、この遠征を仕組んだ。言え。」
目の前には、この本丸一練度の高い長谷部君が、正座している僕たちを見下ろす。
「俺「私です。」っ!?」
「私が、鶴丸と光忠と一緒に遠征へ行こうといいました。この本丸に来てから、一度も実戦に出ていなかったので。」
「重傷のうえ負けて帰ってきたとは何事だ。主の戦歴に泥を塗るつもりか。」
「申し訳ございません。弁明のしようもございません。」
「大体、お前は女だ。本来在ってはならない刀だ。ソレが出陣するという事は、
「まぁまぁ、長谷部君。みんな無事に戻ってきたんだし、それぐらいに」
「そういうことを言うのは、当事者であるお前ではないだろう。」
「光忠に当たらないでください。当たるなら私ではないですか?長谷部兄様」
「…お前らが重傷を負ったおかげで、いらない手入れが増えただろう。資材はどう取り戻すつもりだ。お前らに使う資材だって、この俺たちが出陣して取ってきたものだぞ。」
「もうしません。」
「当たり前だ。二度とこういうことをしてみろ、俺はお前を斬る。」
「おい!へし切り長谷部!それは少し言い過ぎだ。仮にもお前はこいつの兄だろう!」
「鶴丸国永は黙れ!俺は今に話している!」
「お前は本当に面倒くさい奴だな!少しは一期の振舞を見習ったらどうだ!」
「鶴さんっ!抑えてっ!」
「いや光忠、金輪際だから言わせてもらうぜ、へし切り長谷部。お前は、主命以外に何が大事なのだ?この本丸か?審神者であるあの主も週に1日とて帰ってこないこの本丸が次に大事なのか?だったら、その本丸がなくなった時に、お前が次に何に縋るのか、見てみたいものだな。」
「いう事はそれだけか、鶴丸国永。」
「口だけは達者なんだな。ひねくれ坊ちゃんが。」
「…っ!」
「はっ長谷部君!刀は仕舞おう!!君のその切れ味がいいのは、今日十分で分かったから!!」
売り言葉に買い言葉。鶴丸の挑発にまんまと乗った兄は、そのまま勢いよく腰にある刀に手をかけた。
それを見た光忠は、焦りに焦って重傷にも拘らず、兄の手を止めた。
機動お化けといわれている兄に追いつけるのは、私たち三人の中で唯一光忠だけらしい。
「とにかく、今日は主が数時間ほどだけだが、この本丸に帰ってくる。手伝い札をやるから、速攻なおしてこい。」
「ありがとうございます。」
「長谷部君、ありがとう。」
「はっ、手伝い札なんていらないね。」
「鶴さんはそうやって!いやいやいや、長谷部君、ありがたく使わせてもらうから、僕が預かるよ。」
じゃぁ、行こうか。と光忠の声に私と鶴丸は痛む体を動かした。
「あぁ、。」
この重苦しい空気の部屋をあと一歩で出れるという所で、兄の声に引き留められた。
「俺は、お前が嫌いだ。女である故に主はお前の処遇について悩んで居られる。」
「はい、知っておりました。兄上が私の事をお嫌いなのも。出陣後、出迎える時に嫌な顔をするのも、知っておりました。でも、今日、今、はっきりと仰ってくれてありがとうございます。確証が持てました。」
私たち兄弟は、どう頑張っても、あの粟田口の様な優しい兄妹にはなれないのだ。
兄は何よりも、主命が一番であり、兄妹である出来損ないの私に割いている時間はないのだ。一刻たりとも、その惜しい時間を割きたくないのだ。
「出来るなら、二度とその顔を観たくないもんだな。」
「…へし切り長谷部っ!」
「鶴さん!重傷なんだから、早く手入れ部屋行くよ!!ほら!も!」
「…うん。」
歌仙さんと、久しぶりに内番をこなした。
歌仙さんの練度は、特がついているほどの練度で、到底私にはかなわない。
だが、当の歌仙さんは、自分の練度に物を言わない人で、とても優しい。雅じゃない事には、厳しいが。
主が久しぶりに帰還した(普段は造船所でかんむすという人たちを束ねているらしい)為、歌仙さんは主の部屋で随分と話し込んでいるのだ。
主の部屋へ行っても、する事もない私はその外で待機していた。
籠の中には、とれたての野菜が転がっている。
ぼぅっと庭先を見ていれば、左から久しぶりに兄の音を聞いた。
といっても、大きなため息であったが。
頭にかぶせた白い布を、より一層深くかぶったところで、兄は自分の隣に座った。
刀を右において、静かに言葉を発した。
「、、、顔を上げろ。」
「二度と顔を観たくないといったのは兄上です。」
「あぁ、そうだな。だから、そんな山姥切国広みたいな恰好をしているのか。」
「大倶利伽羅に勧められたので。」
「そうか。」
「大阪城で無事、博多藤四郎を保護できたと聞きました。」
「あぁ。」
「お疲れ様、です。」
「あぁ。」
何を喋ろうか、と思考を巡らせていても、何も出てこない。
兄と喋ったのは、あの遠征事件以来である。
「そういえば、」
「はい。」
「主から、光忠が第一部隊に入る事は聞いたか。」
「いえ…そうですか。」
「あぁ、早くても来週からだそうだ。」
「鶴は。出さないのですか。」
彼は、何よりも驚きを大切にしている奴だ。あんな憎たらしい奴でも、私達よりもはるかに年上であり、五条が打った刀なのだ。
そして、彼は何よりも、きっと私たち三人の中で一番、実戦を望んでいる。
「鶴丸国永か?あいつが出る事は今後ないだろうな。」
「なぜですか。」
驚きがないと死んでしまいそうだ、といっていたのに。
「折れたら大変だろう。お守りだって限られている。」
「鶴にお守りを持たせれば良いではないですか。」
「限られていると言っているのが分からないのか。それに練度の低い奴にお守りを託しても、すぐに破壊されるのが目に見えている。不効率だ。」
「それは、主が言ったのですか。」
「いや、俺が提案した。」
「兄上は、鶴が嫌いなのですか。」
「そうは言っていないだろう。」
「私にはそう聞こえます。失礼いたします。」
「おい、歌仙を待っているんじゃなかったのか。」
「野菜を光忠に届けに行くんですよ。どうせ歌仙さんの分の籠もここにあるし。」
それでは、失礼いたします、と足早にそこを去った。
後ろで、小さな声が私の名前を呼んだが、聞こえないふりをした。
「心はとうの昔に死んだも同然だ。」
「そうなの?」
「毎朝起きては、光忠とお前と朝餉の準備、それが終わったら、庭で遊んで、時間になったら飯の準備。俺は子供か?皆の親か?」
「少なくともこんなことやってる時点で、子供だよ。早く湯浴みに行きなよ。光忠に怒られるよ。」
「いやぁ、白一色の内番服だろう?雨上がりの庭にできた水たまりで泥塗れになりたかったんだよ。」
「くそじじい」
「ほーお?そりゃぁ俺の事か。」
「当たり前じゃん。びっくり真っ白めんどくさい男め!」
光忠に怒られるのを知っていて、鶴はこういう事をする。
その服を洗うのは、私なのを知っていて、鶴はこういう事をする。
それでも、愛想が尽きない私達は、きっと鶴丸と長くいすぎた。此処に来た後も、とうの昔に主を同じくした時も。
「いやぁ、疲れた疲れた。すまんが、引っ張り上げてくれ。」
「仕方ないなぁ、もーー、、、、ってちょっ!?!?!?」
手を差し伸べた所で、鶴がそれ以上の力で引っ張ったため、私は盛大に水たまりに転んだ。
「はっはっはっ!驚いたか?」
「驚くよ!もーー、昨日洗ったばっかりだったのに…最悪。クソ鶴死ね」
「ちょっ!二人とも何してんの!?いつまでたっても厨房来ないから探してたらコレだよ!ちゃんも、鶴さんも早く起きて!水溜りでバタバタしない!泥が飛んでるよ!!誰が片づけると思ってるの!?」
「そりゃぁ、なぁ、。」
「ねぇ、鶴。」
「「光忠(だろ)(でしょ?)」」
「嫌だからね。」
「じゃぁ、お前も一緒に泥にまみれればいいじゃないか。」
「はぁ?」
「そーっれ!」
「あーーーー!もう、ぜんっぜんかっこよくない!」
「泥も滴るいい男だよ、光忠。」
「全然いいこと言ってないからね、ちゃん?」
「あー、ずんだが食いたいな。」
「確かにー!」
「光忠、今日のおやつは何だ?」
「二人には上げないから。」
「なんとご無体な!そりゃひでぇ!」
「ちょっとまって、私は巻き込まれただけだから、私は何も悪く
「悪くないなんて言えないよね?今さっき元気に『そーっれ!』って言って僕の足、引っ張ったよね?」
「う゛っ」
という感じの長編か、中編ぐらいの小説が書きたいです。
刀剣乱舞よくわからない、という方でも読みやすくするにはどうすれば、、、と試行錯誤しながらモサモサ頭の中で考えてます。
ちなみに、すごくどうでもいいんですが、長谷部の前で光忠はの事を、ちゃん付けで呼びません。
鶴丸にとって、兄弟っていうのは粟田口の様に皆優しいもんだと思っているので、へし切のあの冷たい態度には嫌気がさしてます。
そんな設定。どう見ても、最初はへし切長谷部から嫌われという。