No happy ending.



朝起きて、カーテンを開ける。 差し込む光の所為で、目を一瞬閉じた。
まぶたの裏に浮かんだ、の笑った顔。
目を開けて、空を見れば、の笑顔は、当たり前のように消えた。
未来を知る術の無い、俺等。
何が起こるか知らない、不確かな未来。
あるか、どうかも、分からない。
生き延びれば、何か見えると思い、死なずに、此処に居る。

・・・」

名前を呼べば、きっと返事をしてくれるだろうと。
そんなアホらしいことを考えていた、俺。
案の定、返事は無い。 心の中に居る、だけが、返事をしてくれた。
自分らしくも無く、未練タラタラ。 男らしくも無いな。
俺に言い寄る女は、腐るほど居るだろう。 今までそうだったし、今でもそうだ。

だが、は、そんな俺の隣席になろうが、嬉しがらずに、嫌がった。
土方、沖田と仲が良いらしい。 よく、一緒に話しているのを教室で見かけた。
今回は、奴の運も悪く、土方、沖田の席とはかけ離れた、窓側一番後ろ席。
 いわば、居眠り特等席。


は、話しかけることも無く、ただ、窓側から校庭を見るだけ。
教科書も忘れたことの無い、クラスでも優等生だった。
このクラスで、平均点をあげてんのは、コイツだ。





「あ」
高「?」

朝。ホームルームは、もう始まる。
隣に座った奴は、小さく声を漏らし、カバンをあさるのをやめた。

「・・・・あーあ、やっちゃった。 やっちゃったよ・・・」
高「何をだよ」
「関係ない」
高「・・・(怒」
「・・・はぁ・・・」
高「・・・そんな、あからさまにため息つかれると、気になんだろ。言えよ」
「・・・教科書と参考書、忘れた。というか、筆箱も・・・」


どうせ、夜まで徹夜してて、寝坊し、カバンに入れるのを忘れたとかだろ?

「そうだけど。 勉強して無いアンタに言われたくない」
高「何も言ってねぇし」
「丸聞こえ」
高「マジでか・・・」


教科書は、机くっつけて、見れば良い。
俺は、少ないシャーペンと、消しゴムの片端を、渡した。

「いいよ、トシに借りるから」
高「今、お前の隣席は俺だろ? 俺を頼れよ。 一応、クラスメイトなんだしよ」
「・・・高杉らしくないね。 まぁ、いいや。 有り難く、貸してもらう」
高「・・・明日、コーヒー牛乳奢れよ」
「・・・そうきたか・・・・(汗」








教科書に、書いた落書きを、に、笑われたり。
教科書に、銀八の似顔絵書いたり。
時々、土方、沖田とか4人一緒に飯食って。
に、煙草吸ってるところ見られて、怒られたり。
が、無防備な所を俺が、怒ったり。
分からない所を、に教えてもらったり。




面白かった。 楽しかった。 何にも換えられない、思い出だった。
其の日までは。



帰り道を、初めて一緒に帰った。
俺が、下駄箱で、待ち伏せして誘っただけだけど。
参考書やら、教科書、辞書やらが入ってる、重そうなの鞄を持ち
俺は、自転車の後ろに、を立たせた。
は、スカートの下に、体操着というか、そんなのを着てる。
最初は、座らせようと思ったが、最近沖田のスカートめくりが、酷いという事で
は、体操着をスカートの下に穿くようになった。

河川敷を自転車でこいで、の手は、俺の肩。
タバコの煙を嫌うの為、帰り道は一本もタバコを吸わなかった。
交差点に、差し向かう路地。 今まで信号が無かったのが、一番良かった。
にぎやかな場所に行けば、自転車2人乗りをしていることに、怒られる。

ふと気付いた、坂道。
ブレーキが、利かない。
カチャカチャと、音がするだけで、その機能は果たしてなかった。

異変に気付いた、は、驚いたように、俺の耳元で何か言ってるが、
俺には聞こえない。
俺だって、驚く。 今日の朝まで使えていた、ブレーキ線が、切れてた。
足を使っても、自転車は、坂道の上のために停まらない。
は、後ろ席で立ったまま。
お回りさんが、俺等の2人乗りを注意したが、そんな所じゃない。
停まらねぇ。 自転車が。 停まらない。











ズガシャンと、濁った音。
散り去る、俺とのカバン。
空に飛ばされた後、ズドンと、落ちた音。
朦朧とした意識の中、目先で倒れたを見た。
は、後席で立っていた。 だから、



















パチッと、右の目を開け、天井の白さに目をまた閉じる。
周りを見渡すと、左の目に違和感。 手を差し伸べると、包帯。

傍で、母親と父親が泣いていた。
医者と2人きりにされて、俺自体の傷の具合を話し始めた。
左目はもう、使い物にならないらしい。
どうも、自転車と車が衝突したときの破片が、目に入ったらしい。
他は、足骨折で、全治1ヵ月半。 頭蓋骨の損傷も、見当たらないらしく。

俺は、傍に居た女は、何処だ ときいたら、医者はビクついた。




高「何処だよ。 隣の病室か?」
「・・・彼女なら、今さっき亡くなった。
 意識は取り戻していたけれどね、傷の酷さに体がついていけなかったらしい。」
高「・・・は? ふざけたこと抜かすな、タコ」
「・・・救急員から聞けば、君等は、自転車で2人乗りしてたらしいね?
 彼女は、後席て、立ってなかったかい?」
高「・・・・」
「もし、そうであるなら、あの傷は納得がいく。
 後席で立っていて、車に引かれた。 そうとなれば、即死も同じ。
 それに、坂道の所為で、スピードも上がった・・・そうじゃないかな?」
高「・・・・・・・」



医者の言ってることには、間違いは無い。



は後席で、立っていた。
坂道で、スピードも上がった。
利かない、ブレーキ。
車の行き交う、交差点。
車と衝突して吹き飛ばされるのは、そう。
後席で、立っていた









次の日、土方と沖田が着た。 如何見ても、喪服。
ああ、葬式か。 死に目にも見れなかったな、好きとも伝えてねぇのに。
俺は、無言のまま、土方を見据えた。
殴られるかと思ったら、テーブルの上に、一枚の紙を置かれた。

それを、開けて、目に映るは、の文字。






「たのしかった。」



と、だけしか書いてない。
途端にする、後悔と、情けなさ、悔しさが、混じり、俺は点滴を無理やり剥がして、
左目の包帯をはずした。




土「何してんだ」
高「見て分かんだろ? 点滴と包帯はずしてんだ」
沖「・・・そんなことして、どうするんでぃ?」
高「意味ねぇじゃねぇか。 治療したって。」



一体、何の意味が無いのかは、自分でも知らない。
きっと、治療しても意味が無いんだろう。




やっと過ごせた、楽しい日々。
それは、が居たから、在った、日々。
退屈しない日々。 俺をちゃんと真っ直ぐに見て、叱ってくれる奴。



土「誰が望む、そんなこと」
高「少なくとも、この俺だ」
沖「でも、は望んでないと思いやすけど?」
高「・・・・」
土「俺から見ても、もし此処にが居ても、きっと、お前を怒ると思うぞ」
高「・・・居ねぇじゃねぇか。なんて」
土「死んでねぇよ」
沖「勝手に殺さんでくだせぇ」








「「少なくとも、俺の心には生きてる(んでさァ)」」




高「・・・」
土「人が死ぬときってのは、誰かに忘れられたときだ」




床に出来る、点滴の水溜り。
痛々しい、俺の左目の傷。 立ち上がった所為で、走る骨折した足の痛み。
を勝手に殺した、罪悪感。
そっか、コレが、涙って言うんだよな。
目から勝手に流れて、「泣くな」と言う、脳の命令にも背いて、流れる。
蛇口を捻ったように、出ては、目じりを赤くさせる。




お前は、死なない。
心の中に、お前が居るからだ。
お前は、死なない。
俺が行き続ける限り、死なない。







たとえ、俺がクソジジイになったとしても、お前は忘れない。


















お前の、あの笑顔だけは、ジジイになっても忘れない。






















お前の、 「たのしかった。」 って書いた紙だけは、失くさない。




























と過ごした、やっと過ごせた平凡で楽しい日々を、俺は、一生忘れない。








お前は、生き続ける。 俺が、此処で生き続ける限り。





A happy ending gone forever more.

ハッピーエンディングなんて、俺には無い。




< image sobg by Mika / happy ending >