Signal.

死体の腐った匂いが、鼻を擽る。
視界は煙のお陰でぼやけて、よく見えない。
雲が空を隠し、煙が視界を悪くさせる、悪循環。
断末魔の叫び声が、彼方此方で聞こえるのに、 助けられないもどかしさ。
生延びて居たい、死にたく無い そんな気持ちが、俺等の腕を上げさせた。
守るものは、一つだけ。
の暖かい、その笑顔。

ああ 何度でも 叫ぶよ
君の名前を 届くまで
心の針を回せ


自分の名前を呼ばれ、振り向いた先に、舞う赤い血。
手を伸ばし、掴んだ手は、力も無く、その身体が地面に落ちた。

高「・・・?」

を倒したその相手の銃口が、今度は俺の頭に向けた。

高「てめぇ、何処の回し者だよ」

の身体から手を離し、俺は相手との目線を合わせるように、立ち上がった。
相手の腰に、刀。 手には、銃。
怪奇的な姿では無い事から、コイツは人間だろう。 羽織の胸元に、幕府の紋章。
ヅラが、今朝言ってた
 「幕府が裏切った。 数十名が昨日打ち首になっている」
って情報は、ガセじゃないらしい。
カチリと音がし、俺は相手の手元にある銃を注意深く見た。
安全装置が、外れてる。 何時でも俺を、撃てるって訳だ。

高「・・・」
「てめぇか、最近発足した、鬼兵隊の頭ってのは」
高「だったら、何になる。 知ったところで、どうなるってんだ」

知らしめてやらァ、俺の者に手ェ出すってのが、どんだけの事か。
俺の目的を邪魔するってのが、どんだけ悲惨な結末を生むのかを。

ああ 何度でも 唄うよ
君の心を 守る歌を
さあ今 ここへおいで


握りなおした刀が、音を発した。

比べて見るか?
相手の握ったその銃と。
俺が握りなおした、この刀。
どちらが先に、武器を壊すのか。

高「・・・最後に一つ。」
「なんだ。」
高「松陽先生は、如何した」
「・・・」
高「松下村塾の、松陽だ」
「・・・あぁ、お前は其処の門弟か」
高「知って如何する」
「別に、何も利得は無いがな。
 松陽なら、今日、今さっき、打ち首になった。」
高「・・・」
「知っての通り、今、敵にすべき者は、天人ではない。
 お前等、攘夷志士だ。」

そう言われ、不意に向けられた銃口に、俺は目を開いた。

__________バンッ!

高「・・・ッ!」
「・・・」

__________ザシュッ!

「カハッ―――――」
高「・・・いっ…」

相手は、手元が狂ったらしく、俺の胸元ではなく、左目を撃った。
その後、俺は痛み任せに刀を振り下ろし、相手が真っ二つになった。
顔中、浴びた返り血だらけ。 みっともない姿に違いない。
左目を抑えていた手を取り、右目で見て見れば、真っ赤に染まった銃弾がそこに在った。


俺は、幕臣の身体を蹴り上げ、を抱き、その場を後にした。




流れてく街で おいてけぼりの心
勇気のカケラを 何時の間に失くしてた
僕ら 出会うときまで
一人では 枯れてしまうなら







河「晋助? 何をしてるでござるか?」
高「別に、何でもねぇ」
河「・・・」

目の前に施された墓は、何時かの俺が拵えた、ちゃちい墓。
の錆びた刀が、地面に刺してあり、其処は少しだけ土が盛って在る。
傍に置かれた身知らぬ花は、きっとどこぞの天パが置いて行った物だろう。
俺の嫌いな黄色をした花だった。

来「船の準備、出来たッス!」
河「行くでござる、晋助。」
高「・・・。」
河「?」

呼んでも意味が無いってのは、百も承知。
返事が無いってのは、もう知っている。
だけど、その名前を呼ぶ度に、心が痛くなんのは、気のせいか?
その名前を呼ぶ度に、心が締め付けられんのは、気のせいかよ。
返事して貰いたい奴が、此処に居ない。
そんな現実が、今の俺を作り出したんだ。

高「何でもねぇ、行くぞ」
来「はいッス!」
河「・・・」



何度でも

( ぶっ壊してやる、この世界を。 )