「俺ァ、もう長くないんでさァ」




縁側に、こじんまりと座った総悟が言った。
天気は、太陽のお陰で少し暖かい。
アタシは、傍で総悟の刀の手入れを、
総悟の替わりにしていた。 
何時、何処に居ても、手放さなかった一本の刀は、
もう今じゃ、使わない飾り物。
昔は、悪戯っ子だった、総悟も今じゃ、病持ち。
血を吐いては、寝込み。
苦しんでる総悟にアタシは、傍に居ることしか出来ない。








「そう自分から言ってると、本当にそうなるよ」
「実際、そうじゃないですかィ」
「・・・」
「生きてよ。」
「・・・それぁ、無理な願いだ」
「・・・生きて、生きて、生き抜いてよ。
 たとえ、剣は握れなくても良い。
 総悟のしない書類は全部アタシがやる。
 だから、だから・・・、」
「今年の夏は、越せない、
 そう、医者に言われやした」
「・・・そんなの唯の憶測だよ?」
「最後に、蝉の声、聞きたかったんですけどねィ」
「・・・」
「どっち付かずの春は、嫌いでさァ。
 暑くも無く、寒くも無く。 嫌いな季節・・・」
「桜があるよ」
「桜も、嫌いでさァ」
「・・・」
「満開になったと思ったら、直ぐに散る。」
「・・・そうだね」




まるで、誰かの人生の様に。
折角の晴れ舞台、真選組があるのに、
肝心なときに剣は握れず、
何も出来ず、ただ疎外されてゆくだけ。
一つ、一つ、命は戦で死んでゆく。





「そういえば、仕事はどうしたんでィ?」
「・・・え?」
「仕事でィ、し・ご・と。
 最近は巷が騒がしいようで?
 真選組 一番隊 副隊長さん?」
「・・・あ、」




返答に行き詰った。 いえない、いえないよ。
だって、もう真選組は無いんだもの。
マヨラーの土方も、ストーカーのゴリラも、
ジミな山崎も、居ないんだよ。 
屯所に行っても、居ないんだ。
誰も、居ない。
鬼の副長も、ストーカー局長も、優秀な密偵も。
皆、今じゃァ、戦場の何処かの屍骸。 
もう戻れない道に立ってるんだ、真選組は。
守ってきたつもりの砦は、もう崩れたんだ。





「最近は、仕事が無いの」
「・・・へェ。 天下の真選組が仕事なし、ねェ?」
「アタシ、もう行くね。
 総悟も早く寝なよ? 身体に障るし!」
「・・・、ゴホッ、ゲホッ」








立ち上がり、総悟に刀を渡そうとした時、
眼を背けたくなるほどの血を、床に吐いた。
まるで、今さっきアタシが言った言葉を裏切るようにして。
それでも、アタシをみて笑ってる総悟は、意地っ張り。








「約束して」
「な、にをでィ?」
「アタシよりも、長く生きて?」
「・・・」
「そんで、皆に言われるの。
 真選組一番隊隊長の沖田総悟は、土方を苛めてたって。
 サディストで、意地悪なヤツだったんだって。
 泣く子も黙る、真選組 一番隊隊長の沖田総悟だって。
 皆に、言われるの。 やんちゃだったんだって。
 武州一の剣士だって、出世柄だって。
 皆に、皆に言われるの。 武州の皆に、言われるの。
 その時まで、その言葉を聴くまで、いき続けて。
 振り返らず、一人でも総悟は大丈夫だから・・・、」
「・・・何をする心算でぃ、アンタ」
「・・・アタシだって、長くない」
「・・・・・・・!?」
「総悟は、悪いけどまだまだ死なない。
 皆にクソジジイって言われるまで、生き続けるの。」
「死ぬ心算ですかィ? 俺よりも、先に」
「言ってなかったけど、気付いたでしょ? 戦になるって。
 マヨラはね、寝込んでんの。
 指揮はアタシが取ってるんだ。」
「じゃぁ、約束だ」
「何を?」




お前が、嘘付いてんのは、バレバレなんでさァ。
土方だって、近藤さんだって、もう、死んでる癖に。
俺に遠慮して、寝込んでると、嘘付きやがる。
でも、もう土方さんも、近藤さんも山崎も、
死んだことは知ってるんでさァ。





だから、
だから、
だから、












約束して。
この時代の先まで、
生きてくれる事を。

























真選組 一番隊 副隊長

 


午後一時半時 殉職







真選組 一番隊 隊長

沖田 総悟


労咳により、
午後一時四拾五分 病死。
















ちょうど、同じ時刻、同じ空。
2匹の蝶が、天へと飛んでゆくのを、その日誰かが見た。








天を翔けたその刃、
天を翔る、蝶に変れ。



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