緑だった葉が、徐々に色を変え、地面を茶色に覆う頃、アタシは真選組屯所のある部屋に居た。 目の前には、血だらけのトシが、其処で横たわっていた。 ああ、そっか。 アタシに何の相談も無く、アンタは出て行くんだ。 あんな視界も最悪な、雨の夜に。 勝手に隊士、連れてって。 総悟も、連れてって。 皆で、戦ったんだ。 女のアタシを置いて。 「未来は不知顔さ、自分で創っていく。」 多分貴方は そう云うと 判っているのに ほんのちょっと ざわめいた朝に 声を失くすの 笑い顔、最後に見たかった。 泣いた顔、最後に見たかった。 困った顔、最後に見たかったのに。 何で、トシは一人で逝ってしまうんだろう。 まだ、何にも知らないんだよ、トシの事。 近藤さんから、聞くんじゃぁ、意味が無い。 総悟から、聞くんじゃぁ、意味が無い。 知りたい貴方自身から、聞きださないと、意味が無いのに。 ねぇ、どうして? 「トシが、居なきゃ、副長助勤の意味、無いよ。 トシが、副長じゃなきゃ、いけないんだよ。」 私は 貴方の強く光る眼 思い出すけれど もしも 逢えたとして 喜べないよ か弱い今日の私では これでは未だ厭だ そっと、頬に手を当てて見たら、案の定氷のように、冷たかった。 そっと撫でた髪の毛も、閉じたままのその瞳も、もう、今日でお別れなんだ。 _ポタッと、生ぬるい液体が目から流れ、頬を伝い、トシの制服の上に落ちた。 染みを作ったそれは、直ぐにトシの制服に滲んで、見えなくなった。 「アタシ、何で泣いてんだろうね」 心に空いた穴が、塞がらない。 伝えたい言葉が、伝えられない。 さようならを言いたいのに、言えない。 立ち止まったまま、前に進めない。 何をすべきなのかも、何が必要なのかも、何も分からない。 ただ分かる事は、もうトシが此処には居ないこと。 可笑しいな。 身体は此処に在るのに。 存在感が、何処にも無いんだ。 感じたい温もりが、何処にも無い。 「答えは無限大さ、自分で造っていく。」 枯れ行く葉が相変わらず 地面を護っている そんな大地蹴って歩いては 声を探すの 何時ものように、屯所に響く怒鳴り声が聞こえない。 何時ものように、怒るトシの姿が、何処にも見当たらない。 それは、有り触れた日常から、直ぐに消え去った。 神様は信じないと言った彼に、もしかしたら神様が天罰を下したのかもしれないとか、そんなのん気な事を考えていたけれど。 もう、そんな事は如何でも良かった。 現実は、現実のままで、何も変わりゃしないんだから。 私は貴方の 孤独に立つ意思を思い出すたびに 涙を堪えて 震えているよ 拙い今日の私でも 結っていた髪を解いた。 髪飾りは、何時かのトシがくれた物。 小さな赤い紅葉が付いた髪飾りは、 始めてもらったプレゼントだった。 アタシは、トシの事なんて、これっぽっちも知らない。 だからこそ、隣で一緒に生きて、知りたかった。 時々見せる、困った顔、笑った顔、泣いた顔。 眼の奥に抱えた、いろんな過去を。 一晩じゃ、語りつくせないから、 毎日、毎日少しずつ、教えてもらうんだ。 寝る前に良く聞く、御伽噺のように。 もしも、泣きそうになったら、今度はアタシが面白い話をして、 疲れたら、笑って おやすみ して、寝るんだ。 明日もきっと、幸せだなと、思えるように。 傍に居た、隊士達が泣いていた。 近藤さんも、総悟も、珍しく泣いていた。 アタシは、ただ泣けず、上に登り煙をそっと見ていた。 澄み渡る空は、アタシ達の影を作り出した。 いつも隣にあった、大きい影は、たった今、 煙となって、空に消えた。 雲の一片となって、そっと消えた。 燃やした炎が、血の色に似ていて、少し怖かった。 明日は 貴方を燃やす炎に 向き合う こゝろがほしいよ もしも 逢えたときは 誇れる様に ねぇ、トシ。 どうしよっか? 心に空いた、この穴は。 何をしても、治りそうに無いんだよね。 もしも、泣くことさえも、出来なくなったら、笑うことさえも、出来なくなったら。 この穴が一生治らないままで居たら、 トシを忘れてしまう前に、あの雲の一片に成るように、煙に成っちゃおうか? トシを忘れてしまう前に、最後には笑って、逝ってみよっか? 同じ末路、同じ季節。 そう辿っていったら、君の元に逝けるかな。 また逢えるかな。 大好きだった、君に。 |