ふと部屋の窓から見た紅桜に、人の影がある。

アタシは、警戒しながら、窓辺に近づいてみた。



死んだ








「・・・ん? 其処に誰か居るのか?」

男の声。
気配は、感じた事が無さそう。

アタシはコッソリと窓辺から顔を出した。

「・・・・・あ」


見覚えのある面。
見覚えのある目つき。
後ろに居るのは、白い生き物。



「ヅラだぁ!!!」
「・・・貴様誰だ」
「・・・・え・・・・?」

忘れられて当然か。
死んだって事になってる上に、2年もブランクがあれば、忘れられるよな・・・。

「俺の名前は、。」

「・・・?」
「そう。」

うん、我ながらにして、良く頑張った。

「・・・と、おんなじ苗字だな。 まぁ、同じ苗字ぐらい、何処にでもいるか」

「・・・」

やっぱ気付かないんだ。 あたしだって事。

「誰だよ? その女っぽい名前」
アタシは、試しに聞いてみた。 如何思ってるのか、何故か無性に気になった。

「昔の同士でな。 アイツは、男並みに強かった。
 男勝りな上に、料理もだめ。 女の風上にも置けぬ奴だ。
 あいつは女じゃないな。第一、胸も無い。無愛想。 きっとアイツは、男だ」
「・・・・」

殴っても良いのかな。 コレ。 殴っても良いのかな。

「そんな奴も、幕府に殺された。 俺の仲間でな、奴を守るといってた輩がいた。
 だが、ソイツもあいつを守ることなく、今じゃぁ、腑抜けておる。」
「・・・・」
「・・・・攘夷党の あいどる のような存在でな。 奴が笑えば、場は一気に華が咲く。
 奴も気づいていなかっただろうな。 自分がどんだけ、偉大な奴だと。」
「・・・・・」

攘夷戦争時代は、似合わなかったんだよ。 笑顔だなんて。
だって、笑っていられないでしょ?
仲間が一つ、一つ。消えていく中で、笑って過ごすなんて、最悪じゃん。
死んだ仲間に悪いじゃん。 笑って、今を生きて。 昔の事、無かった事にして。
そんなの、死者に失礼だよ。

「・・・・奴を守るといった者は、いまじゃぁ、チャランポラン。 全く、どうした物か・・・」
「・・・・・銀・・・」

つぶやいてみた。 ただ、名前を言うだけでも、こんなに違うんだよ。
ただ名前を言っただけで、こんなに違う。 どんなに辛い事があっても、前を見て歩けるんだ。

「銀時を知ってるのか?」
「・・・・・」

もどかしい。


もどかしい。





ねぇ、もどかしいよ。



昔の同士が目の前に居るのに。
自分の本名も出さずに、偽ってる。

ヅラが、目の前に居るのに。
自分を偽ってる。










ねぇ、助けて。









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