先生は、確か。
捕まったはず。 幕府に。
攘夷戦争、終盤最中。 攘夷思想を持つ危険人物だ。
とか言われて、開国派の人間に捕まったんだ。
死んだと思ってた。 切腹か、打ち首で。
死んだという知らせも、何も無かった。




死んだ




「・・・」

声が出ないとは、正にこの事。
目の前の現実に、頭が着いていけない。

松「・・・・014。情報を出せ。
 何でもいいんだぞ。 実験の結果情報を、出せ」

部屋に居た他の誰かが、アタシの後ろで、手を縛った。
土方は、ただ、ドア付近で立ってるだけ。

「知らないって言ってるじゃん!」

人の恩人を使ってまでも、情報が欲しいんだ。こいつ等は。
腐ってる。 人間的に、腐ってる。


「そんな事を抜かしても、事は露見しているのだ!
 嘘を付いても晩い! 松山のヤローからは、
 テメーがタネだって言われてんだよ!」

何が、松山だ。 そんなに情報が欲しければ、殺さなければいい物を。
自業自得だ。

「だから、情報なんて持って無い!」

何度、繰り返せばいいんだろう。 この言葉を。
興味が無いんだ。 実験なんか。
銀時の代わりに、実験台になっただけ。
居なくなった、013と014の代わり、と言っても、自分達だけど。
それを、埋めただけ。

「強情な女だな。
 これなら如何だ?
 目の前に居るお前の命の恩人とやらを殺してやろうか?
 お前の目の前で。あ゛ぁ?」

「・・・」

先生は、起きる気がしないらしい。
そのまま。動かない。
生きてるのかすら、疑問だ。

土「とっつあん。大体、何で捕縛してんだよ。
 普通なら、取調べとk・・・・・」

松「あ゛ぁ? 何で捕縛してるってかぁ?
 当たり前だろぉ。 コイツが、幕府の欲しい情報を持ってると
 松山(しょうざん)のヤローが、殺される前に言ったんだよ」

土「何言っても、口は開かないんだろ?」

松「あぁ、だが情報を持ってることは確かだ。
 だから、ココに居る奴を、
 人質にして聞きだしんてんじゃねぇか。
 おじさんのやってることは、
 90%正しい。そー決まってるんだよぃ」

土「・・・・強情だな。とっつぁんも」

松「黙れぃ!」

そういった後、土方は、去って行った。

「・・・・・(人質を殺せば、皆が怒る、でも、情報なんて持ってない・・・・・」

松「・・・・・チッ。
 おい、アイツを起こせ」

そう、松平が、命令した後。部下が、無理やり、先生をたたき起こした。

「・・・・・!」

先生はそのまんま、起きた。 そのまんま。 変わらない。
ロン毛だった、髪は、もっとロン毛に。
少しだけ、ジジ臭くなってる。

松陽「!?」
松平「・・・・目の前に居るのは、お前の教え子だな?松陽。」
「・・・」

そう、松平に聞かれても、先生は、肯定も、否定もせずにアタシを見た。
真っ直ぐに、真剣な目で。 すこし驚いたような。

途端に、凄く、悔しくなった。
こんな事に成るんなら。 実験を知っておけばよかったんだ。
そうすれば、こうやって、捕まる事も無い。 先生だって、ここから出れる。

「・・・・」

無くした記憶を辿った。
そういえば、実験後は何時も、書類を渡されてたんだ。
実験の副作用と、働き。 それと、長所と短所が書かれた書類。
アタシは、それに目を通すことなく、何処かにしまってた。
文字を読む気はしなかったし、知りたくも無かった。

ココから逃げ出して、なくした記憶を辿って、松山の実験所まで行って。
其処から、書類を持ち出せばいいんだ。
そしたら、先生は、解放されるし。アタシだって・・・・。
そしたら、一番に伝えるんだ。
思い出せない名前の仲間に。
先生が、生きてたって。
死んでなんか無いって。

その前に、名前・・・思い出さなきゃな。

だから嫌なんだ。

記憶が無くなることが。

名前は…なんとか晋助、高波? いや、違うな…。 
あと、ヅラ。それに・・・・・・
あと、誰だっただろう。
4人居た。 4人。 晋助と、ヅラ、それと・・・
途端に、頭痛がした。
その頭を、思いっきり振って、頭痛を飛ばした後。 思い出したんだ。

皆、死んだんだよ。

最終的に、寺子屋に残ったのは、アタシと4人。
もう一人は、終戦間際、どっかに消えたんだ。

死んだんだよ。 皆。

護れずに。 守れずに、死んでいった。
昨日まで、一緒に笑っていた奴は、次の日に死んでったんだ。






みんな、しんだんだよ。



生き残れないんだよ、あの戦争で。



だから、晋も、ヅラも。 覚えて居ない2人の名前の奴等も、











みーんな、死んでちゃったんだ。





考えたくも無かった。 自分の頭の中で、
どこの記憶が途切れてて。
どこの記憶が在るのか。

全然、分からない。


アタシは、俯いてた顔を、先生に向けた。
心配そうな、目でアタシを見てる。

その目を、直視したまま。

アタシは、意識を手放した。











松平「・・・・・人質を使っても割らぬ口か・・・。」










back/Next/top